BASEプロダクトチームブログ

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国内2019年のFinTechトレンド予想(融資・資金調達・ファイナンス領域編)

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この記事は「BASE Advent Calendar 2018」19日目の記事です。

devblog.thebase.in

はじめに

こんにちは。BASEの100%子会社であるBASE BANKの矢部(@Toshi_Day1)です。BASEの金融事業という立ち位置で先日リリースした、リスクなく即時に資金調達ができる金融サービス「YELL BANK(エールバンク)」を中心に複数の金融事業を立ち上げ責任者をしています。

今回、社をあげてのアドベントカレンダーということで、テックな内容ではありませんがFinTechについて少し書き連ねていきたいと思います。

ここ1年弱、消費者と事業者の混ざり合ったようなユーザー層への金融サービスに思いをめぐらせつつ、決済をコアとした事業構造のBASEに身を置き、またFinTech企業や金融機関の方々とお話させていただく中で学んできたことをもとに、来年のファイナンス領域におけるFinTechトレンドを予想したいと思います。

より多くの人にとって金融サービスが普遍的なものになり、個々人が想像力や可能性を広げることができる世の中を作るため、日々事業に向き合っています。このブログ記事を読んで、興味が湧いた方がいらっしゃれば、ぜひ気軽にご連絡ください。ディスカッションやブレストなども誘っていただければ嬉しいです。

※Crypto、Blockchain、STOなどと、面白いと感じることも多いのですが、まだ勉強中のため割愛します。
※この記事の内容はあくまで個人的な意見・見解を示したものです。

1. 個人やスモールビジネスが持つ資産を流動化し、換金性をあげるサービスが登場

個人の資産流動化の流れ

資産の現金化という意味では2017年の「CASH」を筆頭に、それまで行われていた「メルカリ」で物を売って現金に変える、という行為を簡略化するような形で即現金化サービスがでてきました。また2018年には給与の前払いサービスなどへ多くの事業者が参入していきました。このような消費者向けの少額資金ニーズが顕在化したことについては、個人的には仮想通貨の価格高騰により我々が認知する割引現在価値が大きく変化したからであると、こちらのnoteで考えてみたこともあります。

これらのビジネスに共通しているのは、個人のBSを想定したときに流動資産科目をキャッシュに変えるような機能であることと言えます。基本的には、引き続き2019年もこのトレンドが続いていくと考えていて、ブランド品や(パート・アルバイトを含めた)給与以外にも身の回りにある高単価な物品、あるいは無形材をバーティカルにカテゴリー化して換金できるような仕組みに挑戦する企業が出てくるのではないのでしょうか。タイミングはもう少し先だと思いますが、権利や契約関係、データなどのBSに反映されにくいものもブロックチェーン上で資産管理され、換金性が高まるような変化が起こるでしょう。

オンラインファクタリングサービスの登場

一方で、類似の仕組みを事業者に当てはめたサービスが2018年の下半期からぽつぽつとリリースされ始めています。もっとも多かったケースとしては、事業者が保有する売掛債権を譲渡することで資金調達をする"ファクタリング"のビジネスをオンライン化していくケースです。

直近の事例としては、下記が挙げられます。

  • クラウドワークスが提供する「フィークル(feecle)」
  • GMOクリエイターズネットワークが提供する「FREENANCE(フリーナンス)」
  • マネーフォワード100%子会社であるMF KESSAIが提供する「MF Kessai」
  • 三菱東京UFJグループ運営のMUFJ Digital Accelerator出身のOLTAが提供する「OLTA(オルタ)」

また「YELL BANK」もスキームとしてはファクタリングを応用させたものになっています。

フリーランスや中小企業に特化しつつ、各社自社サービスの強みを生かす形での参入パターンと、全くの新規での参入との両パターンが存在していますが、ファクタリングは産業としての歴史は比較的浅いこともあり、ほとんど認知されていません。おそらく経営者や財務関係の方でもファクタリングについての知見を持ち合わせている方はごく少数なのではないでしょうか。

アメリカでは既に「Fundbox」や「BlueVine」など売掛債権を活用したファクタリングやABL(動産担保融資)等のファイナンススキームでユニコーンとなる企業も登場し始めています。今後日本のマーケットにおいてもFinTechスタートアップによって、本格的にファクタリングが流行っていくのか、とても楽しみです。

流動資産を活用したファイナンス

売掛債権を活用するファクタリングのように、流動資産(不動産に対して動産という)を活用したファイナンススキームは、ファクタリングやABLなど、アメリカでの市場形成を参考に日本では2000年代から中小企業庁を中心に推進しようとする動きが活発でした。しかし、残念ながら未だに一般的に利用されているとは言い難い現状があります。

中小企業のバランスシートをみると、動産の資産価値ベースで売掛債権で87兆、棚卸資産46兆、その他流動資産47兆円が積み上がっています。借り入れを見てみると金融機関、その他から合わせて約240兆円あり、この規模が事業性ファイナンスにおけるTAMという考えることも可能かと思います。加えて小規模事業者のマーケット、フリーランスなど統計上捉えられない市場も加味すると、マーケットのポテンシャルの凄さに気付くかと思います。細かいセグメントでの分析は別の機会にしようと思いますが、チャレンジに値するマーケットが存在することは明らかです。

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(中小企業白書 第2部 中小企業の稼ぐ力「第5章:中小企業の成長を支える金融」より)

事業者向けのFinTechサービスとしては、貸金業との対比における参入障壁の低さからファクタリングが先行していきますが、商流ファイナンスの流れに乗っかって在庫、POなど、売掛債権よりも更にサプライチェーンを遡った部分でのファイナンス手法を提供するインターネット企業が後々生まれてくるでしょう。一例としては、事業者の物流管理がクラウドサービスで行われるようになった際に、生産過程での商材を担保に運転資金融資をするなど、ある意味で商社金融によって担われていたようなサービスを、個人やスモールビジネスでも受けられるような時代がくるでしょう。

f:id:Toshi_Day1:20181219011347p:plain (日本銀行金融高度化センター ITを活用した金融の高度化に関するワークショップ「データを活用した金融の高度化」)

競争環境は厳しめ

このように事業者の資金調達課題、特に運転資金の課題に対しての切り口は現時点でも複数考えることができます。また、既存の市場環境をみてみると無数の中堅、小規模な事業者が激しく戦っている状態で、まだ誰が勝ち切っているとは言い難いのが現状です。

更に言うと、トランザクションレンディングの切り口でAPI型、マーケットプレイス型、会計型、決済型、それぞれの参入が続いていく中で、ファクタリングや商流ファイナンス単体でどこまでスケーラビリティをとれるかは難しいところかもしれません。 新規参入の際に既存プレイヤーとの差別化として、外部サービスとのAPI連携や銀行口座情報の取得など、多くのデータポイントを作り出していくことを戦術的に取りれる事例が増えていきますが、マーケットのマジョリティーを占めるであろう中小製造業社や卸売業者がデータソースとなるようなクラウドサービスを導入しているかといえば、現状まだまだな状況です。

米国事例との単純比較で言えば、独立的にファイナンスサービスを提供するテクノロジー企業(代表的な例で言えば「Kabbage」)の立ち上がりが、決済やマーケットプレイス企業である「PayPal」、「eBay」と同時期であったことにより、複数のユニコーン企業を産む結果に繋がっている一方で、日本ではマーケットプレイスが先行したために融資・ファクタリングのテックプレイヤーが急拡大する余地が薄くなってしまっています。

このような市場環境での新規参入に取りうる事業戦略は、他産業の事例や金融業界の歴史を振り返ると6つほどに類型できると私自身整理していますが、これについてはまた別の機会に書いてみたいと思います。

何にしても事業性融資/中小企業の資金調達という巨大マーケットで戦うプレイヤーが増えることは、資金需要者からするとファイナンスオプションの増加につながり、メリットは計り知れません。

CACの問題や、ファクタリングなどの参入障壁の低さ、債権回収のパワー関係、資本政策の難しさなど、あげようと思えばいくらでもこの市場でビジネスを生み出していく上での壁を思いつくことができます。しかし、我々はスタートアップとして課題があれば解決していかなければいけない立場にあります。BASEもBASE BANKを通してこの市場に参入しているわけなので、新規サービス、産業の発展、そして顧客の課題解決に知恵を働かせていきたいものです。

2. 既存のSaaSサービスから派生した金融サービスへの展開

クラウド会計サービスの貸金業進出は言わずもがなとして、ピンポイントなところで言うと、SmartHRが金融サービスを展開していくでしょう。代表の宮田さんご本人のブログにも、

おそらく FinTechっぽい事業になる予定です

とありますし、確度は高いのではないでしょうか。

事業展開としては、給与前払い系、あるいは会社が従業員へ貸付する場合は貸金業登録を必要としないので、従業員への貸付や債権管理をサポートする機能、給与から天引き回収などの事業展開かなと思っています。自社で「SmartHR Pay」のような機能を用意して、給与振込自体を自社サービス内に留める、といったことも妄想はできますが、現在のPayment市場では難しいのではないでしょうか。そうすると選択肢としては、やはり貸付周りや、積立や資産運用サービスを「Folio」など他社とのアライアンスで提供していくような新規事業を作っていくのではないかと考えます。

決済+ECで事業を作りあげてきたBASEは、個人的にはSquareと重なって見えることが多いのですが、彼らがPayroll領域へとプロダクトの幅を広げていることもありSmartHRとも若干被り始めているように映り、とても興味深いところです。

日本ではまだSaaS自体が立ち上がっているフェーズということもあり、金融サービスへと展開していくケースは少ないかもしれませんが、産業ごとのバーティカルSaaSの特性を生かして個々の金融課題を解決していく様子は想像するだけでワクワクするものです。

物流や医療機関など、各カテゴリーごとに立ち上がったSaaSがホワイトラベル化する銀行とアライアンスを組みながら金融事業を展開していく、というストーリーは多くの方が想像するところだと思いますし、これが実現される世の中であってほしいです。

3. 株式投資型クラウドファンディングの立ち上がりの兆し

事業としてエクイティクラウドファンディングが立ち上がりはじめたのは2012年頃に米国でJOBS Actが成立してからだと記憶していますが、欧米に引き続き日本でもようやく参入の兆しがみえはじめています。
(参考記事:JOBS ACTによる米国証券法等の改正)

またスタートアップ界隈でもエンジェル投資が一般化され始めており、この流れに乗っかりたい投資家は潜在的に多いのではないかと考えています。かくいう私も個人的な趣向としてFinTechスタートアップを中心に、人間の可能性や想像力を拡大していくような企業へ50〜300万ほどの少額投資したいと思うことが多々あります。(ほとんど自己研鑽/事業立ち上げが好きだからという理由ですが。)

もちろん調達側の企業とのマッチングが本質であるので、一般化されるのは難しいかもしれません。しかしながら特定のビジネスレイヤーに対しての拡大は非常に早いのではないかと、半分願望ですが考えています。

4. 比較レイヤーの新規参入

顧客へダイレクトにサービス提供する事業者が増えるにともなって、インターネットのことわり通り、顧客側には比較検討するニーズが発生します。しかし、融資領域では商品特性がコモディティ化されており、金融機関ごとに差別化することが難しい現状があります。ここに一歩踏み込んだ形で比較サービスを展開するプレイヤーが出てくるでしょう。

例えば融資領域ですと、現状検索結果はアフィリエイトサイトで溢れています。一方で融資の媒介(送客・広告ではなく、融資契約を仲介すること)は、貸金業法で登録済みの事業者しかできないことになっており、気軽には参入することができません。

新規の比較レイヤーは正式に貸金業登録を完了させた上で、自社サービス上で財務分析・信用調査・金融機関による審査と条件交渉などを複数同時平行で進めることができるようなプラットフォームを目指して生まれてくると思います。このように既存金融機関が融資プロセスの中でコストをかけて行なっていた一部の過程をアウトソースするという切り口での参入は、他産業ではよく見かける事例でもありますが、金融はブラックボックス化されやすい特性からか未だスタートアップが入り込めていません。

米国事例で言えば、「Fundera」がこれに近いかもしれません。Crunchbaseを見ると2015年のシリーズB以降の資金調達がないですが、金融機関の広告、オペレーションコストを考えるとマーケットは十分と言えそうです。

5. 金融リスク管理系SaaSサービスの発展

比較レイヤーの論理と同じで、プレイヤーが増えればその分事業者の課題の総量も増えていきます。 特に新規参入のスタートアップにとって、与信、債権管理、回収、ALMマネジメント、信用リスクモデルの構築、ポートフォリオ管理、統合的リスク管理、担保や保証などの各種経営管理要件を自前で準備して運用していくことは大きな負担であり、そもそも人材マーケットにこれらの経験がある人はほとんどいません。

金融におけるリスクは信用リスク、オペレーショナルリスク、市場リスクなどに分けて考えられますが、まずは信用リスクの部分を補完するサービスを展開していく事業者がでてくるかと思います。そもそも金融におけるリスク、というのは情報の非対称性と不確実性の両性質を持っています。前者についてはインターネット的な解決手段を提示しやすく、後者については機械学習を筆頭にAIがコアバリューとなったソリューション提供が増えていくでしょう。

先行する米国では、すでにいくつかのサービスが立ち上がっています。債権管理であれば「Yaypay」、債権回収領域の「TrueAccord」、Banking as a Serviceの「Plaid」などがこれにあたります。

また信用調査に関して言うと、日本では伝統的な企業信用情報サービスはTDB(帝国データバンク)やTSR(東京商工リサーチ)による独占状態です。この領域は市場規模も1000億以上あり、かつ課題が多く、上記のような切り口でのスタートアップによる参入もあるはずです。シードステージのスタートアップでは「アラームボックス」などが存在していますが、まだまだ参入企業数が少ない印象です。2019年は盛り上がりを見せることを期待しています。

おしまい

注目しているスタートアップや各市場への参入の戦略など、他にも考察したいことは多いのですが、今回のブログでは一旦ここまでとします。色々と考えを書き連ねてきましたが、まとめたり分析したり考えを書くだけならば、私個人としてはノーバリューだと思っています。

私はアナリストでもコンサルタントでもなく、あくまでも起業家/事業家としてしっかりと新しい時代の金融サービスを創り上げ、より良い未来に貢献いきたいと思います。 Be Hopeful!!

お茶・ランチも常時募集してますので、こちらのリンクTwitterからでも気軽にご連絡ください!

明日はBASE BANKチームを機械学習エンジニアとして支えてくれている岡さんです!