BASEプロダクトチームブログ

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「出版バイアス」から考える情報との向き合い方

この記事は BASE アドベントカレンダー22日目の記事です。

いよいよ年の瀬も近くなってきました。マネージャーの松原(@simezi9)です。

この時期になるとアドベントカレンダーとして大量のアウトプットが世に公開されるのもすっかり毎年の恒例となりました。 そこで改めて「出版バイアス」という現象とそれを起点とした情報との向き合い方を考えてみよう、というのが本エントリの趣旨となります。

出版バイアスとは何か?

「出版バイアス」という単語は耳にしたことがあるでしょうか? この概念は科学論文の世界、とくに医療関係の論文においてよく話題に登場するものです。

その意味とは、肯定的な結果を持つ研究や革新的で独創的であると主張する論文ばかりが世の中に公開される傾向にあり、 そうでない論文、つまり仮説に対してネガティブな結果に終わった研究やはっきりとした結論が出せない研究が世の中に出てこないというバイアスです。 これによって研究の成果が成功例ばかり報告されてしまい、本来よりも過大な評価をうけてしまうという現象が起こります。

これにたいして肯定的な結果を持つ論文しか出版されないことから「出版」バイアスという名前がついています。 これは「生存者バイアス」や「サンクコストの誤謬」といった概念とも相通ずる物があるかと思います。

このバイアスが生まれる理由はとても明快です。 研究者たちからすれば論文として成果を上げるプレッシャーにさらされている中で自分の功績として華々しく主張できない結果をいちいち論文として公表するような手間を取らないし、 読み手側としても刺激的な結果を求めるために否定的な論文は需要が少ないためです。

このバイアスに対抗するための手法というものも様々考案されているようで、統計的手法(メタアナリシスにおけるファネルプロットなど)を用いて、報告されている結果に不自然な偏りがないかをチェックしてみたり、 研究のプロトコルそのものを事前に信頼できる外部機関に登録(研究に際しての仮説、データの取り方や取ったデータの分析手法などを事前に決めておく)したうえで、 結果がどうであれ必ず公表することにする(=研究の途中に発生するバイアスの除外)といったことが行われているようです。

ファンネルプロットの例

世の中にある出版バイアス

この出版バイアスという現象から考えさせられることは多いと私は思っています。

つまり、科学の世界では論文の価値を高めることに非常に重点が置かれるため先述のようなバイアスを自覚し、それを極力排除するような取り組みが行われるわけですが、 そうでない自由な出版物に対してはその動機が存在しないためよりこのバイアスがひどくなるのではないか、と考えているためです。

出版物というのは論文や書籍に限らず、ブログのエントリであったり登壇スライドであったりSNSの投稿であったり、様々なアウトプットに当てはまります。 より具体的に言うと、「〇〇という仕組みを導入したらめちゃくちゃ成功した」という共有は行うにあたって非常にハードルが低いのに対して、「〇〇はダメ」と主張するのは非常に大変ですし(かつ炎上しがちでリスクが高い)、 「〇〇には効果があるのかなんともわからなかった」などという結論がぼんやりした投稿を行うことはさらに難しいです。

結果的に世の中には「〇〇は効果がある」という共有ばかりが残ってしまい、その価値が実態よりも過大に評価されていくという傾向があるように思います。 その〇〇とはもしかしたら例えば「React」だったり「マイクロサービス」だったり「Kubernetes」だったりはたまた「1on1」だったりするのかもしれません(実際にそれらがそうであるという話ではなく、あらゆるトピックが入りうるという例です)。

バイアスと向き合う

このバイアスに対抗するというのは実際の問題としてかなり難しいもので、 耳目を集めるアウトプットを出したい著者と刺激的なコンテンツを求める読者、という構図がある限り世の中には自然とそうしたアウトプットが増えていくことになります。

実際にこの文章を書いているさなかでも、もっとかっこいいパンチの効いた主張ができないか、などと考えている自分がいます。 あるいは、アドベントカレンダーで特に動きが盛んになる企業のテックブログなどでは失敗を公表することにより組織のレピュテーションを汚す結果になることを恐れますし、そもそも失敗を認めたくないから書きたくないことも多いでしょう。

本当はもっと様々なアウトプットがまんべんなく公表されていく世の中が理想なのかも知れませんが、 残念ながらこうした出版バイアスというのは避けられずに存在しています。 あらゆる意見表明の場において「共有されずに終わった結果・意見が存在している」ということを意識の片隅に置いておくだけでも物事を冷静に捉える助けになるのではないかと思います。

最後に、出版バイアスの話をきちんと知りたい方は以下の書籍などに詳しいので関心があればぜひ年末年始の課題図書にいかがでしょうか

明日は@yaakaitoによる記事です、お楽しみに!