
はじめに
この記事はBASEアドベントカレンダーの4日目の記事です。
EC作成サービスBASEのプロダクト開発チームでエンジニアリングマネージャー(EM)をしている @tanden です。
私たちのチームではこの1年ほど、開発組織のケイパビリティをどう可視化し、継続的に改善していくかについて考え方の整理と運用に取り組んできました。「今の組織はどこが強みで、どこに伸びしろがあるのか?」を共通の視点で語れるようにするため、SPACEのようなフレームワークにヒントを得ながら、組織を立体的に捉えるための「補助線」を引くことを目指しました。
この記事では、私たちが整理した「開発組織のケイパビリティ可視化」のコンセプトと運用方法について紹介します。まだ取り組みの途中ですが、組織運営のヒントになれば幸いです。
ケイパビリティ可視化の取り組み振り返り
EC作成サービス BASE のプロダクト開発組織ではこれまで、Four Keys を開発チームのケイパビリティ指標として捉え、Google Apps Script などを用いてプルリクエストのマージ数やリードタイムを計測し、改善につなげてきました。
マージ数やリードタイムは今も継続して追いかけている重要な指標で、計測と振り返りをセットで運用することで一定の成果を得られています。
一方で、複雑さが増すプロダクト開発・運用の実態を捉え、組織として継続的に改善サイクルを回していくには、これらの指標だけでは不十分ではないか——そんな考えが徐々に生まれていきました(課題感に共感いただける方もいるのではないでしょうか)。
そんな中で、これまでの取り組みを振り返りから、主に以下の3点が課題として挙がりました。
組織としての方向性や全体像が曖昧だった
本来であれば「どんな組織を目指すのか」という前提に沿って指標を選ぶべきでしたが、その背景や全体像を描き切れていませんでした。
プルリクエストの指標だけでは複雑な開発を捉えきれない
マージ数やリードタイムは重要ですが、プロダクト開発を多面的に理解し、改善サイクルを回すには要素がやや不足していました。
一定の改善ラインを越えると伸びしろが見えづらくなる
プルリクエスト関連の指標は、ある程度最適化されるとそれ以上の改善余地が小さくなり、チームの状態把握はできても、次のアクションにつながりにくくなっていました。
ケイパビリティ可視化のコンセプトと目的
そこで私たちは、これまでの反省を踏まえつつ、開発組織のケイパビリティ可視化の枠組みづくりに取り組むことにしました。
「汎用的な生産性や開発力指標は存在しない」という前提のもと、上記3つの課題を反転させるため、以下のコンセプトのもと進めました。
- 個別指標の妥当性よりも、開発組織の能力の全体像と方向性を描いてから指標の位置づけを明らかにする
- 複数指標を利用して組織の能力や状態を多面的に測れるようにし、定期的に計測指標を入れ替えることで改善のきっかけを提供し続ける
- 指標を達成できるかどうかよりも、改善後の組織やチーム・個人の理想状態をイメージできるかどうかを重視する
上のコンセプトを満たしつつ、対話を通じた未来へのアクションプラン作りと改善の実行・計測のサイクルを回すこと目的に、ケイパビリティ可視化の取り組みを進めました。

開発組織の4つのケイパビリティ
開発組織のケイパビリティ可視化を進めるために、まず開発組織のあるべき姿を描いていく必要があります。開発組織のあるべき姿を描くために、この取り組みの中では Evidence Based Management(EBM)という考え方を参考に、全社やプロダクト開発組織において定義されているミッション・ビジョン・バリューと整合させる形で、開発組織のケイパビリティを4つの分野に整理しました。
サービス価値の維持
ユーザーが今現在価値を感じて利用しているサービス上の機能提供を維持し続けること。
全社におけるミッションやビジョンとの整合性
- 「人生のオーナーを増やす社会基盤」(基盤=いつ・いかなる状況でも利用できる信頼性が高いもの)
プロダクト開発組織のミッションやビジョンとの整合性
- 「ショップが成長していくことを支えるサービスであり続ける」
- 「トラフィックを適切に受け止めて、決済を無事に完了させる」
素早い価値提供
新しい価値を提供するまでに必要な時間を限りなく短くすること。
全社におけるミッションやビジョンとの整合性
- 価値提供スピードについての言及はないが、スタートアップとしてのスピード感で価値提供・価値創出を行い、社会基盤の構築を目指すことは暗黙的な前提
プロダクト開発組織のミッションやビジョンとの整合性
- ハイスループットなプロダクト開発組織を目指す
新しい価値の実現
まだ実現できていない価値(機能や体験)をテクノロジーの力で実現すること。
全社におけるミッションやビジョンとの整合性
- 「あたらしい決済で、あなたらしい経済を」
プロダクト開発組織のミッションやビジョンとの整合性
- 「多様なニーズに応える機能改善をし続ける」
- 「サービスの成長にチャレンジしていく」
参考として、BASEグループとプロダクト開発組織のMissionやVision、Foundationがまとまっている会社紹介資料を掲載させていただきます。 手前味噌ですが素敵なMission / Vision / Foundationなのでご覧いただけると嬉しいです。
組織・ワークエンゲージメント
組織体制(組織)やワークエンゲージメントは上の3つのケイパビリティを支える土台として位置づけます。仮に上の3つのケイパビリティを高いレベルで実現できるスキルや経験を有していたとしても、ネガティブな雰囲気で溢れ疲弊した組織では、もてる力を十分に発揮することはできません。
プロダクト開発に直接関わるケイパビリティだけでなく、組織に関する指標やワークエンゲージメントの可視化と改善も目指しています。

組織における実際の運用
4つのケイパビリティ分野における理想像(未来づくり)を起点として、可視化と対話の流れを作るために、組織が日々運用しているOKRと結びつけることをまず目指しました。
開発組織として達成したい目標(Objective)がどのケイパビリティ領域に紐づいているのかを明確にすることで、以下のつながりを意識しやすくなります。
- いま自分たちは組織として何を伸ばそうとしているのか / どんな課題があるのか
- その施策をやる理由は何なのか
- KPIが示す変化はどの能力の成長を意味しているのか
事業目標とOKR(施策含む)、ケイパビリティ領域のマッピングは、以下の画像のようなイメージになります。

このように事業目標、OKR、ケイパビリティを重ね合わせることで、それらが一本の線でつながり、チームの前進をより的確に捉えられるようになります。
実際にやってみてどうだったのか
実際に運用を始めてみると、上記以外のメリットや取り組みの難しさもでてきました。ここでは簡単にご紹介できるものに限りますが、いくつか共有させてください。
施策の偏りに気づける
大規模なプロダクトを日々運用する上で、システムのパフォーマンス改善や利用パッケージのアップデートなど、今あるシステムを維持するだけでもやるべきことは山積みです。EC作成サービスBASEの運用においても同様で、「サービス価値の維持」分野の施策が多くなりがちでした。一方で、そこばかりに力を割いてしまうと、Four Keys計測の取り組みが後回しになるなどの弊害が生じます。
そのため、OKR施策を検討する際には、まず1年間の最重要領域を決め、その領域に優先的に施策の枠を確保し、残りを他の領域に割り当てるようにしています。
ちなみにFY2025では「素早い価値提供」分野を最重要領域と定めて取り組みを進めてきました。詳細については、12月8日のアドベントカレンダーでEMの @takashima から共有させて頂く予定です。
「新しい価値の実現」分野は難しい
「新しい価値の実現」分野は、定義にある通り「まだ実現できていない価値(機能や体験)をテクノロジーの力で実現すること」を目指すことになります。この分野は、普段の開発とは異なる技術スタックやそれらを使ったUI/UXの検証など、開発研究・R&Dの要素を含みます。成果が不確実な試行錯誤が必要であり、難易度も高いため、どうしても後回しになってしまっているのが現状です。
とはいえ、AI活用をはじめ、やるべきことはたくさんあります。プロダクト開発組織として引き続き取り組んでいきたいテーマです。
おわりに
プロダクト開発組織のケイパビリティ可視化の取り組みについて紹介しました。4 つのケイパビリティ領域を定義し、それらを OKR と結びつけることで、組織として何を伸ばそうとしているのか、施策の意図や成果がどの能力に紐づくのかをより明確に捉えられるようになったのではないかと感じています。開発組織の目標管理や成長を考えるための新しい「補助線」として、読者の方の参考になれば幸いです。
まだ道半ばではありますが、これからも組織の未来づくりと可視化、そして対話のサイクルを重ねながら、プロダクトと開発組織の継続的な成長を目指していきたいと考えています。
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明日のBASEアドベントカレンダーは @rerenoteさんからの記事です。お楽しみに!