BASEプロダクトチームブログ

ネットショップ作成サービス「BASE ( https://thebase.in )」、ショッピングアプリ「BASE ( https://thebase.in/sp )」のプロダクトチームによるブログです。

創業期CTOが残っている会社が上場するとどうなるのか

こんにちは。BASE株式会社上級執行役員SVP of Developmentの藤川です。2023年のアドベントカレンダーも実施したいと思っており、この記事が1日目になります。

自分自身がBASE社に正式ジョインしたのは2014年8月、取締役CTOとして入社しました。僕は2代目のCTOですが、その後、3代目にCTOを渡し、今では上級執行役員SVP of Developmentというちょっと珍しい肩書で仕事をしています。組織としてはCTOの上長でもあり、自己紹介では技術担当役員と表現することもあります。

自分がBASE社に入社した段階ではシリーズBを迎えていました。象徴としては藤田ファンドから出資をいただいてから、上場を意識した組織に変えていくという空気感だったと思います。

BASE社には正式ジョインする前から技術顧問として関わっていて、週一だけ会社にあらわれるおじさんだったのですが、そのタイミングでは39歳でした。40代はBASE社に捧げたわけですが、先日50歳を迎え、自分自身の節目も含めて、2023年のタイミングで振り返ってみたいと思います。

入社直後の初期スタートアップ感

入社直後の開発チームはデザイナーもPdMの役割もセットで10人ちょっとぐらいのチームでした。専門職の集まりというよりはそれぞれがデザイン、フロントエンド、バックエンド、PdMなどを0.5ずつの役割を持っているようなタイミングだったとも言えます。

この規模の入社当初のCTOの役割というのは、経営チームにジョインしたものの実態は開発マネージャみたいな役割であったり、他社であれば、ほぼテックリードという組織が多いのではないでしょうか。

自分自身の入社時には、すでに開発が回っているチームになっていたので、自分はコードは書かずに開発チームの皆さんを支えますと言ったことを覚えています。今で言うエンジニアリングマネージャとして動きますという宣言ですね。

現実には、BASEのネイティブアプリのコードを見ていたり、当時かCTOがデプロイ作業をやっていたのでリリースマネジメントを手動でやっていたり、redmineで不具合や要望管理など現場の仕事は続けていました。アップル社のお仕事でエンジニアとしてクパティーノにお伺いしたこともあります。

当時は渋谷の道玄坂の途中にある新太宗ビルという飲食店やマッサージ屋さんも入っているビルにオフィスがあって、会社の目の前には飲み屋や男性向けのマッサージ店、道玄坂の客引きトラックの音が聞こえてくる猥雑な環境で、我々の働き方はすでにスタートアップ企業でしたから牧歌的とまでは言わないですが、どこかのんびりしていた環境下で自由に仕事をしていた時期だったと言えます。

のんびりと書くと語弊がありますね。

BASEの初期フェーズだと、例えば競合他社とのリリース競争というものがありました。他社様が機能をリリースしたら、我々もすぐさま追いついて、次の日にリリースを出すような時期もありました。ある種のプレスリリース競争とでも言いますか、ミート戦略とも世の中では言うそうなのですが、MBAで学ぶような動きを鶴岡が自然にやっていたのが印象的でした。

こういうのをのんびりというのもおかしいのですが、仕事的な緊張感というよりは、生き残るためにはそれをやらねば!というグルーブ感の中で動いていて、明日をも知れぬスタートアップの初期タイミングとして、サラリーマン的なお仕事のあり方とはちょっと違うような働き方をしていた時期だったとも言えます。

ただ、あまりに過度なミート戦略の追求は、現場の疲弊をもたらすので、あるところから自分たちのプロダクトをしっかり作っていこうとシフトしたのも覚えています。

後から考えると、まだこの頃は、代表の鶴岡が思うBASEというサービスのビジョンがわかっていなかったタイミングでした。例えば、実はfintech企業であったこと。BASEという無料のECのストアフロントに込められた想いというのは、その後、理解していくことになります。

いろんな課題の意思決定の議論の中で、本当に鶴岡が目指しているもの、大事にしているものなど、彼自身の価値観というのが少しずつ見えてきたタイミングでもありました。

初期スタートアップから会社としての成長

その後、ほどなくしてGスクエアという道玄坂交番前のビルに移転します。アメーバビルと言うと知っている人もいるかもしれませんが、以前はサイバーエージェント社が一棟借りされていた縁起の良いビルでした。

オフィスが強化され、当時、メルカリさんが株主になっていただいたこともあり、技術面はもちろん採用面でもアドバイスをいただくことになります。当時のメルカリさんと言えば、採用をブイブイやっていて、他社のCTO経験者クラスをバンバン入社させていくというスーパーエリートスタートアップだったわけですが、採用の手法について聞くと、本当に地道に声をかけて入社していただくということを聞いて、どこか開眼したと言うか、甘えがなくなったことで、我々の採用ペースも加速されることになりました。

BASE社はBASEとしてのビジョン 「Payment to the People , Power to the People」に共感していたける方々を探すべくひたすら自社でイベントをやったり、技術カンファレンスのスポンサーでBASEやPAYという名前を知っていただいて、その人が転職する際、転職エージェントから紹介されるリストからの選択肢に入れていただくことを目指して技術ブランディングを行っていったり、スカウト活動やエージェントとのリレーション強化などをやっていたように思えます。

当時の面接記録を見返すと、2016年では220人以上の面接記録があり、これが多いのか少ないのかわかりませんが、丁度、個人としても大学院の博士論文の佳境のタイミングと被り、ものすごくハードだったのを覚えています。カジュアル面談はこちらが主体に喋るので、喉が辛かったですね。ちなみに、ざっくり25人ぐらいの方に入社いただきました。一人で内定判断をしている時期でもあったので、今より内定基準が緩かったとは思いますが、面接に対する内定承諾率が、10%ぐらいでしょうか。

個人的に思うところとしては、この採用コミットはコードを書くとか技術に携わるという行為とは非常に相性の悪い行為だと思っています。感覚的な表現で伝わらないかもしれませんが、採用活動が自分自身の思考をBASE社のアピールという面に広げて考える活動であれば、技術に向き合う活動はサーバの動きに深く深く沈ませる行為だと思っています。

具体的には、コードを書いている時に面接の時間が来ると、心のスイッチングコストが高くて、面接のパフォーマンスが出ないという時期がありました。結果として、どっちつかずになるところから、技術に深く向き合うのをやめたという経緯があります。

それこそ、2016年、2017年の入社組は後のマネージャのリーダーやCTO、プリンシパルテックリードなど今のBASEを支えている最上位のメンバーになってくれた時期で、開発を彼らに任せるというか、片手間では彼らのスピードに到底ついていけなくなったのがこの時期です。チームが30人いたら、1人日の30倍ぐらいのスピード感で何かが変わっていくわけですから追いつけなくなりますよね。

それらの後にBASEというサービスの技術トップとしてCTOの役割を再定義し、現状の川口に肩書を譲るわけですが、技術に手を付けられなくなったためにCTOという肩書を移譲するという流れになるのは、権限委譲を前提としてチームそのものを大きくすることにコミットするからというのが一番の理由です。

その段階で僕の役割は、一般的な言葉で言うと「VPoE的なマネジメント役を含め、サービス以外の技術経営的は仕事はなんでもやる」という形になりました。

時期は前後しますが、それ以外にもスタートアップCTOとしてやらなきゃならないことが増えていくステップは共通してあるのではないかと思います。

1.初期ではCTOでやれていたAWSやリリースの管理がままならなくなってSRE専門職を採用する。SREにインフラを委ねることで自分自身から手離れしていく

(サービスに関わるポイントが減っていく)

2.人が増えて無線LANが繋がらなくなる。ネットワークの整備をちゃんとしないといけないところで情シスチームが生まれ始めて、インフラやPCの管理が手離れしていく

(情シスタスクの増加)

3.上場に向けてIT内部統制の整備が始まり、サービス技術以外への集中力が取られる

(上場準備に伴うコーポレートガバナンスの整備)

4.サービスとしてはクレジットカード番号を保有していないのに、ECプラットフォームという理由で、クレジットカードを取り扱うセキュリティ基準であるPCIDSS対応を求められる

(関係業界との連携)

などなどが起きていき、サービス技術以外の仕事が増えていくことになり、技術の意思決定については権限移譲していく流れになります。もしかしたらここら辺で向いてなくて離脱する初期CTOの人もいるかもしれないですね。

上場から今

その後、2019年に無事上場を迎え、上場後のさらなる成長のためにチームの醸成、採用の強化、権限移譲などを進めていき、コロナ禍を超えて今に至るわけですが、2023年は、会社のフェーズが変わり、個人的にはコーポレートガバナンスを実現するオペレーションの必要性を強く意識するようになったタイミングであったと思っています。

あ、もっとちゃんとやらないとまずいんだということを知らしめられた一年でした。

雑な表現をすると発生確率が0.0035ぐらいのものが、スタッフ100人の会社だったら1を超えないけど、300人だったら1を超えて実際に問題が発生するってことが見えました。あらゆることを予見しながら、しっかりリスク管理をしないと躓くことが増え始めることがよくわかりました。

また他社様の事例を見てみても、同時期に上場したとある会社さんでCTO役だった方が、より技術にコミットできる開発部長みたいな形に変化したと言う事例があり、やはり役員陣の役割がよりコーポレートガバナンスが求められる方向に変わり、それによる最適配置だったという話を聞いて、自分の直感と感覚があってると共感しました。

組織としても、それまでたくさんの仕事をやりすぎていた自分自身の兼務体制も整理していく流れの中で、より分化された組織として技術マネジメントをしていくという構造に変化していくと思っています。

特にBASE本体の開発チームだけでなく、新規事業寄りであるPayID開発チームやBASE BANK開発チームのサイズが順調に大きくなっていき、それまでのBASE開発チームを中心としていた世界観から間違いなく、それぞれがしっかり組織として成立させていくフェーズに入ると思いますので、そこに携わるエンジニアマネージャの方々との間での全社的な統一感を作っていく必要性を感じています。

それでありながらアグレッシブさをうまく両立させる形で、BASE社の成長を作っていくんだなという感覚が強くありまして、チームマネジメント、セキュリティ、リスクマネジメントなどをしっかりしながら、当社の行動指針の一つであるmove fastを実現するというバランス感ある組織にしていく必要があるな、と思うわけです。

自分語りにしかなっておらず、あまり汎用的な事例としては書けなかった文章ですが、一人でも何か共感などをもっていただけたら幸いです。

BASEアドベントカレンダー 2日目もお楽しみに! devblog.thebase.in