Owners Experience Backend Group で Engineering Manager をしています、炭田(@tac_tanden)です。2021 年 4 月末に『ユニコーン企業のひみつ ―Spotify で学んだソフトウェアづくりと働き方』という本が発売されました。
自分含め、多くのメンバーが「読んでみたい!」と話題になっていた中で、翻訳者の角谷さまのご厚意で献本いただいたので、遅ればせながらレビュー記事を書かせていただきます。
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— Kakutani Shintaro (@kakutani) April 7, 2021
著者について
この本の著者を見たとき驚きました。 "Jonathan Rasmusson(ジョナサン・ラスマセン)"。自分が好きで何度も読んだ『アジャイルサムライ−達人開発者への道−』の著者の、あのジョナサン・ラスマセンさんが書いた、Spotify での経験をまとめた本ということで否が応でも期待が高まりました。
実際、読み終わった後はジョナサン・ラスマセンさんがつぶさに観察した Spotify での開発チームや文化が完結にまとめられていて、読んでいてすごくワクワクしました。
この本のテーマ
冒頭の『日本の読者の皆さんへ』の章でジョナサン・ラスマセンさんは以下のように書かれています。
『アジャイルは今や「ふつう」になりました。(中略)本書を『ユニコーン企業のひみつ』と題したのは、ものすごく成功しているソフトウェア企業(Spotify、Amazon、Googleなど)は「アジャイルでいつもやっていること」を超えた先のやり方を見つけ出しているからです。』
(vii 日本の読者の皆さんへ)
ものすごく成功しているソフトウェア企業(Spotify、Amazon、Google など)はアジャイルを超えたさらに一歩先を進んでいる。その一歩先を Spotify はどう歩んでいるのか。知りたくないかい?という風に自分は理解しました。
これだけでなんだかワクワクしてきますよね。自分は Web アプリケーションエンジニアとしてずっとサービス開発に携わってきた中で、アジャイルでの開発の有効性について理解しているつもりです(スクラムマスターの資格を取りに行ったくらいアジャイルやスクラムの考え方が好きです)。
アジャイルのその先の一旦を垣間見れるということで、冒頭からフツフツとテンションが上がっていき、ページ数がそれほど多くないコンパクトな書籍ということも相まって、一気に 2 時間ほどで読み終えることができました。
アジャイルのその先 〜 Spotifyモデル 〜
Spotify モデルは自分自身はこの本を読むまで恥ずかしながら知りませんでした。2012 年(約 10 年も前なのですね...)に、Henrik Kniberg と Anders Ivarsson によって "Scaling Agile @ Spotify with Tribes, Squads, Chapters & Guilds" として発表されたのが初出のようです。
https://blog.crisp.se/wp-content/uploads/2012/11/SpotifyScaling.pdf
Spotify モデルについて他に詳しく解説されている記事がいくつもあるので、ここではこれくらいにとどめ、自分はこの本の中でいくつか気になった Spotify の開発組織やスタイルについて取り上げたいと思います。
スクワッド
日本語で分隊と訳されることが多い squad ですが、もともとの語源は square(四角)です。昔、銃などの武器がなかった時代に、軍隊では四角い陣形を組んで戦ったことが多かったことに由来するそうです。自分はここから、一致団結して集団としてフォーメーションを組んで開発に立ち向かう姿をイメージしました。
また、この本からスクワッドはチームというよりは小さなスタートアップに近いように感じられました。小さなスタートアップ企業として、与えられた領域の全てに責任と権限を持ち、与えられたミッションを達成するために高速に開発イテレーション(リリースと検証)を回していく。理想のチーム形態の 1 つだと思います。
Spotify ではこのスクワッドが何をするにしても基本となり開発が進むようです。色々なスキルや経験をもった良き仲間とスクワッドを作っていく過程は楽しそうですよね。
ちなみに BASE でも企画・機能の策定から動作確認、リリースまで責任をもって行う複数の役割のメンバーで構成されたチーム単位で機能の開発をしているので、近い部分もありつつ違いも多かったので、スクワッドについて解説している第3章は特に興味深く読ませていただきました。
カンパニーベット
カンパニーベットは会社で取り組みたい最重要事項を並べた ToDo リストです。
会社で最もフォーカスしたいものを、全社向けの OKR のような形で表明する場合もありますが、「ベット」(賭ける)のほうが重要度に対して生々しさを感じてネーミングとして、素敵だなと思いました。
また、この章で紹介されている DIBB(Data, Insight, Belief, Bet)も、いわゆる OODA ループ(Observe, Orient, Decide, Act)をより具体化したものになっていて、過程がはっきりイメージしやすいので、チームに取り入れやすいのではないかと感じました。
会社やチームに限らず、時間は有限ですべてのことを完了させることはできないので、どこかでやることやらないことを分ける必要がありますが、カンパニーベットと DIBB は得られる結果がとてもシンプルになるはずなので、面白い仕組みだなと率直に思います。
会社やチームだけでなく、個人でも何かの目標ややりたいことに対して試してみるのもありなのではないでしょうか?
まとめ
以上が、簡単ではありますが自分が『ユニコーン企業のひみつ』で紹介されている Spotify モデルの一部です。この本では他にもスタートアップとは何かや、開発組織をスクワッドを使ってスケールさせる方法、Google や Apple などとの文化の比較も掲載されていて、単純に読み物として面白かったです。
また、説明も具体的にかかれているので、気になった部分や仕組みを一部取り入れてみることもしやすいのではないかなと感じました。
注意点
この本の英語版が世に出たのが 2020 年 3 月です。また、ジョナサン・ラスマセンさん自身はすでに Spotify を退職されているようで、この本の原型といえるようなブログポストが 2017 年 11 月投稿されていました。
The Spotify Playbookagilewarrior.wordpress.com
つまり、この本で描かれている Spotify の文化や開発スタイルは少なくとも 4-5 年前のもので、2021 年の今では Spotify は別の開発スタイルになっていてもおかしくないですね。
実際、冒頭で紹介した Spotify モデルを初めてまとめた "Scaling Agile @ Spotify" にはこう書かれていました。
Disclaimer: We didn’t invent this model. Spotify is (like any good agile company) evolving fast. This article is only a snapshot of our current way of working - a journey in progress, not a journey completed. By the time you read this, things have already changed.
Scaling Agile @ Spotifywith Tribes, Squads, Chapters & Guilds p.1
この記事を読んでいるときにはすでにやり方は変わっているはず。終わりのない旅なんだ。
進化のスピードへの危機感を持つとともに更に刺激を受けました。また、Spotify でもやはり試行錯誤の連続なんだなと再確認できてよかったです。
最後に
今回、翻訳者の角谷さまのご厚意で献本いただき、拝読させていただきました。
この本がきっかけとなり社内でも開発スタイルや組織についての議論が活発になり、学ぶことが多かったです。改めて感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。
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